おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

食べ物の思い出

子供の頃食べられなかったモノが、大人になってから食べられるようになるのは、舌が年と共に鈍感になるからだ、と聞いた事がある。私は教員時代、給食の時間にさんざん

「一口でいいから食べなさい!」

と嫌がる子供にとっては拷問のような事を強いてきたのだが、この考えに基づくと私は子供の敏感な舌を鈍感にする為に骨を折っていた事になり、なんとも言えない気持ちになる。

 

しかし、カナダに来て私は確信した。

 

舌なんて鈍感な方がいい。

 

私は基本的に好き嫌いはない人間で、どんなモノでもおいしく食べられる自信があった。なぜ過去形なのかというと、こちらに来て私は私なりの食べ物のこだわりと敏感さを持ち合わせていたことを思い知ったのだ。というのも、私は今ほぼ毎日、毎食ホームステイのママの作ったご飯を食べている。その中にはどうやって作ったのか聞きたくなるようなおいしいモノもあれば、正直絶句してしまうようなモノもある。

ホームステイもはや3か月、そろそろここらで、食べ物に関する衝撃体験をいくつかまとめておこうと思う。大丈夫、ホストファミリーは日本語は読めないはずだ…。

 

①ご飯の保存方法問題

うちのホストファミリーはフィリピン人なので、ご飯をよく食べる。他のステイ先の様子を友達から聞くと、全くご飯を炊かなかったり、炊いても水加減がめちゃくちゃでぐちゃぐちゃだったりするらしいが、うちのファミリーはそのあたりは完璧だ。水加減もちょうどいいし(たまにべちゃべちゃだけど)ほぼ毎食用意してくれる。どうやら、私や韓国から来た学生の事を考えてご飯を意識的に多く炊いてくれているらしい。ありがたい。

 

だが、私は一つどうしても許せない事がある。日本でご飯を多めに炊くとき、私はいつも一回分ずつラップにくるむか、ジップロックに詰めて、冷凍庫に入れていた。ご飯は水分量が命。ほっておけばどんどんぱさぱさになってしまう。だが、うちのホストファミリーはなんと3日分くらいのご飯を大量に炊いたら、そのまま炊飯ジャーの中に放置してしまうのだ。確かにここはカナダ。涼しいので腐る事はない。だが、味と食感はどうだろう。炊き立ての時はあんなにおいしかったご飯も、2日3日と日がたてばたつほどどんどんぱさぱさになっていく。その事に気づいているのが果たして私だけなのか、はたまた気づいててもみんな言わないだけなのか…。特に昼のランチボックスの中身がぱさぱさご飯だとなんともわびしい気持ちになる。しかし、こういう時のために私は秘密兵器を常に常備している。それは、納豆。例えご飯がぱさぱさでも納豆のねばねばにくるんでしまえばなんとなく食べられるのだ。(まあ、本当は炊き立てホカホカご飯と食べたいけれど)日本で買う倍以上の値段であっても私が毎週納豆を買うのは、こういう訳があるのだ。

 

②魚の鱗は取ろうよ問題

こちらの人たちは、基本的に匂いに鈍感なのだと思う。例えば、牛乳。日本だと紙パックに入って売られてる事が一般的だが、こちらではプラスチックの大きなカートンに入って売られている。しかし、問題はその匂い。コップに注いでみると、明らかにカートンのプラスチック臭がするのだ。私は子供の頃から牛乳が好きで毎日飲んでいたのだが、こちらに来てからなんとなく避けてしまうのはあのプラスチック臭が嫌だからだ。

夕食に魚の料理が出てきて、なんとも言えない生臭さを感じた時、正直驚きはしなかった。あのプラスチック臭を感じないのであるならば、魚の生臭さもそう気にはならないのであろう。しかし、口の中にじゃりじゃりした鱗を感じた時は、さすがにびっくりした。よく見ると、取り残しがあったというより、鱗を取るという行為そのモノを全くしていない様子。これでは生臭いのも無理はない。鱗にはどう考えてもばい菌がうじゃうじゃ憑いてそうで、なんとも気持ちが悪い。でも何も疑問を感じていない様子の彼らを見ていると、何も言ない日本人の私である。

 

③なんでも一緒にしないで問題

最後は、ご飯ネタで最も衝撃的だった事を残しておこう。ここのホームステイでは、毎日お弁当を用意してくれるのだが、日本のお弁当とはいささか様子が違う。日本のお弁当というと、ご飯の上に梅干しやらふりかけやらがのっかり、おかずが2、3種類詰められて、ミニトマトやらレタスやらで彩られているのが普通である。だが、こちらはそんなちまちま繊細な事はしない。ジップロックコンテナにご飯(3日に一度はぱさぱさの)をつめて、その上に昨日の残りモノをどかどかと乗っけて、はい終了!例えばそれが、味の濃い目の肉料理だったりするならご飯にあうのでなんの問題もないのだが、時にサラダや生野菜なども乗っけてしまう。

ある日、ランチタイムに自分のジップロックを開けて思わず息をのんだ。なんと、ご飯の上にケンタッキーのようなチェーン店で買ったフライドチキンとメープル味のビスケット、それにきゅうりが3切れ乗っかっていたのだ。

おい、これはないだろーーーー!

とりあえずきゅうりとビスケットをご飯の上から避けて、甘くなってしまったご飯には秘密兵器の納豆をぶっかけてなんとか食べた。

ひょっとしたら、こんな小さな事にいちいち驚いたり苛立ったりするのは日本人だけなのかもしれない。そう思った私は、カナダ人、韓国人、メキシコ人、香港人、等々色々な友人にこの事を話してみたが、皆一様に驚いたり気持ち悪がったりする。どうやらこれは、フィリピン人のいささか大らかすぎる国民性から来ているのかもしれない。

このことを日記に書いて先生に見せると、案の定大爆笑してくれたので、これはこれでいい思い出だと前向きに受け止めている。

 

そう、不味いものも、いい思い出になりうるのだ。

これもこちらに来て学んだ事の一つである。