おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

異国の納豆

私は今、ホームステイをしている。

ホストファミリーはフィリピン人。つまりは移民。日本語で「移民」というと、なんとなく物悲しい雰囲気があるが、ここでは当たり前の存在。ここの人たちも

「私たちはimmigrantよ」

と軽やかに言っていた。

 

ホームステイをすると、ありがたい事に3食ご飯を出してもらえる。だから、今の私は朝はシリアルとパンと牛乳、昼はママが作ってくれたお弁当、夜はホストファミリーと一緒に食べるディナーという感じの生活だ。

 

ここの食事でうれしいのは、お米をよく炊いて出してくれる事。もちろん、日本のお米とは違うので、若干ぱさっとした感じではあるが、炊きたては日本のお米ほどではないにしてももちもち感もあり、思っていたよりずっとおいしい。野菜サラダやスープのような日本で言う所の副菜も出してくれるし、肉だけでなくエビや魚なども出してもらえることもありがたい。

「海外の人は日本人のように食にこだわらない人が多いですからね」

と留学の会社の心優しいOさんに念を押されて日本を出発したが、思っていたよりずっと豊かな食生活である。

 

だが、

正直に書こう。最初の一週間はキツかった。別にママの料理がおいしくないという事では決してない。ただ、日本人の感覚からすると、いらない味が二さじほど入っているのだ。だから、やたら味が濃く感じたり塩辛かったり、逆に甘すぎたり・・・。きっと、たまに食べている分には違う風に感じたのであろうが、慣れない環境で緊張して生活している身にはいささかきつくて、日本の味付けが恋しくてたまらなかった。日本にいる相方が、生野菜になんの味もつけずにばりばり食べるのを横目で見て、まるでウサギのようだと言っていたのだが、こっちに来るとそのシンプルさが恋しい。でも何よりも食べたかったのは、土鍋ご飯とみそ汁とあじの干物に納豆。日本で毎日のように食べていた物だ。

 

その時、ふと以前ママに付いて行った大きなスーパーの事を思い出した。そこのスーパーは中国系のスーパーのようで、アジアの品物もたくさんあった。干物やみそ汁は難しくても、納豆なら売っているかも。

 

学校の帰りにスーパーに寄ってみた。豆腐のコーナーを見てみたが見つからず、店員の中国人に「納豆はどこ?」と聞いてみるが伝わらない。「ナ ット ウ!」と5回くらい大きな声で発音してやっとわかってもらえた。案内されたのは、冷凍食品の棚。三個パックで2ドル99セント。日本で買う3倍の値段だが、もうそんなことはどうでもいい。背に腹は変えられない。

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ママがご飯をお弁当に入れてくれた時に一緒に持って行って、学校のラウンジで広げた。メキシコ人が眉をしかめ、韓国人が興味深々で覗き込み、日本人にはなぜか笑われながら、私は納豆をかき混ぜてご飯にかけ、日本で食べるよりうんと丁寧に咀嚼した。

 

うん、間違いない。納豆だ。

 

お腹の底の細胞がキュルキュルして喜んでいるのがよくわかる。

 

やっぱり、日本食が世界で一番だ。納豆でねばつく口元をぬぐいながら、一人うなずく私であった。