小さな日本を探して
最近、どうも色々おかしい。
肩がやたらと凝る。
顔がむくむ。
昼間急に眠気が襲う。
道を歩いていると、突然「あーーーーーーーー!!」と叫びたくなる。
理由はもうわかっている。
日本が、恋しい。
名付けて、日本欠乏症とでも言おうか。
三食ホストファミリーの作ってくれた物を食べ、一日中拙い英語を話す生活にはもう慣れた。慣れたはず。いや、慣れなきゃどーしようもない。
だが、もうここではダイレクトに本音を言おう。
「疲れた~~~」
私は、基本的にはいい加減な性格なのだけど、『せっかくここに来たのだがら、なんとしてでも英語がぺらべ~らの人にならなくては』という変な使命感に燃えてここに来た。
その結果、だれかに押し付けられた訳でもないのに、勝手にこんなマイルールが出来上がっていた。
1 日本の歌手が歌う曲は聞かない。
2 日本語を話していいのは週に1回だけ。
3 できるだけ日本人以外と交流する。
その結果、この1か月半ほどで劇的に英語が上達したか、と聞かれると、当たり前だがそうでもない。言語なんて小さな努力を少しずつ積み上げていくしか上達の方法はないわけで、簡単にひょいっと上達なんてするわけがない。
だが、小さな変化もあった。
夢が、半分、英語になった。
だが、困った事に夢の内容がわからない。知らない海外の映画を字幕なしで見ているような感じで、何言ってんだろ~という状態で話を聞き、私何言ってんだろ~という状態でしゃべっている。夢が楽しくない。なにより寝ていて気持ちよくない。まったく夢くらいは日本語で見せてもらいたいもんだ。
も~疲れた
も~やってらんない
というか、なんでこんなルールを決めてんの?自分。
ある日、ウォークマンで大好きなスピッツを聞きながら歌いながら歩いてみた。見知らぬカナディアンが不審そうにこちらを見ていたが、別に構わない。そうだ、日本食を食べに行こう、と思い立つ。普段、節約のため外食を控えていたが、バンクーバーは日本食レストランがたくさんあるのだ。
日本人の友達を二人誘って休日、日本食レストランに出かけた。
久しぶりに食べる揚げ出し豆腐やきんぴらレンコン、それにタイ米じゃなくて日本の米で作ったお寿司は本当においしかった。
何よりも久しぶりに一日中日本語でしゃべると、気持ちがびっくりするくらい高揚した。それぞれ、ここに来るまでの経歴やら日本での仕事やら趣味やらを話していると、いくら話しても止まらない。不思議な事に、バンクーバーにいるのに日本に戻ったようなそんな錯覚に陥ってくる。
心行くまでたくさん話して、心もお腹も満たされたのだが、家に帰って異変に気が付いた。その日、いつもの様にホストファミリーと会話をしようとした時、頭が全然働かないのだ。ここに初めて来た日、「誰か日本語しゃべってくれないかな~」と思いながら必死でしゃべっていたあの日の感覚そっくりなのだ。
なんとたった一日日本語をべらべらしゃべりまくっただげで、私の脳はあっという間に日本語モードに戻ってしまったのである。これが母国語の魔力かと恐れ入った。よく、留学から帰った後、きちんと勉強し続けないとあっという間に忘れるよ、という話を聞くが、これがそれかと納得した。
そして今現在、また自分で勝手に作ったマイルールに戻り、(と言ってもそこまでストイックではなく)またしこしこと勉強を続ける毎日である。