おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

発音にまつわるあれこれ

 多くの日本人が外国人を前にしても、英語をしゃべりたがらないのは、発音に自信がない人が多いからのような気がする。自分の中学時代、高校時代を思い返しても発音の練習をやったような記憶はほとんどないし、第一そんな物は試験には関係ないし、それ以前に英語で会話しなければいなけい場面もない。英語を声に出すという場面が、とにかく少なかった。

 

 こちらに来てから、たまにホストファミリーのリーが私の発音を直してくれる。リーの口の動き、舌の動きを見ていると、とにかくよく動く。まるでそこだけ違う生き物なんじゃないかと思うくらいのダイナミックさで、英語と日本語はやっぱり随分違う言語なんだなと思う。

 ややこしいのは、私達からすると「え?何が違うの?」という事が結構大事だったりもすることだ。例えば、BとV。正直、ぱっと聞いただけでは私には違いがよくわからない。でも、言われた通りに口を動かすと、「それそれ!!」と言われるので、やっぱり違うらしい。

 

 これまで色々直してもらったが、やはり一番苦手な発音はRとLだ。理由は簡単、日本語の「あいうえお」にはないから。以前、ここに来るまでの飛行機の話をリーとした時に、

「燃料(fuel)チャージを入れて大体600ドルくらいのチケットだった」

という話をした時に、「fuel」の発音がおかしい、という事になりそこからひたすら

「フュ ウ イール!!」

「NO!!  'fuel'!!」

という感じの発音特訓大会になった。リーに言わせると、私の発音は、最後の「el」のがわかりずらいらしい。Rのように舌を丸め込むのではなく、でも口の中に閉じ込めるように発音しなくてはいけないのだが、私にはそのビミョーな違いがいまいちわからない。50回以上発音して、ようやく

「う~ん、まあまあ」

と言ってもらう事ができた。

 学校で「rural(田舎)」という単語を使った時も、なかなか通じなかった。最初のRの発音が難しくて、舌を飲み込むんじゃないかというくらいぐっと奥にまるめこまないとどうやらそれらしくは聞こえないらしい。それからは田舎と言いたい時は、「rural」ではなく「countryside」という単語を使うという姑息な手を使っている。

 

 しかし、こういう悩みは決して日本人だけが持っているのではない。それぞれの国にはそれぞれの母国語があり、英語に近い発音もそうでない発音もある。イントネーションやリズムも違うので、やはりどうしたってそれぞれの国の訛りは出てしまう物なのだ。

 例えばメキシコ人の英語は全ての単語が巻き舌気味な発音だ。そして何より、早い。機関銃をだだだだだだだだーと打つような勢いとスピードで話すので最初は圧倒された。でも、彼らが母国語でしゃべる時はそれよりもっと早い。一度放課後にメキシコ人5人が母国語でしゃべる所を聞いた事があるが、全員が漫才をしているんじゃないかというくらいの速さ。早口で有名な島田紳助並みなのだ。彼らにしてみたら普通のスピードらしいので一体頭の中はどうなっているのか、気になって仕方がない。

 韓国人の英語は、一言一言の語尾が上がり気味でなんとなく全体的にカクカクとした発音だ。日本で韓流ドラマのハングルを聞いた事があるせいか、最初はハングルなのか英語なのかわからなかった。でも聞きなれてくると、なんとなく東北の方の訛りのように聞こえてきて、最近はひそかに親近感を感じている。

 

 先日、発音の練習の授業でVとBの勉強をした。口の動かし方などを丁寧に教わった後、私は台湾から来た女性とペアになって発音の練習をした。

私が「never」と発音すると、彼女は、

「違う、あなたのV発音はジャパニーズイングリッシュよ」

と指摘して、私の発音を直そうとする。そうかなーと思いつつつられて練習するが、彼女は「違う違う。も~~」とあきれた様子で苦笑い。その時、ふと私は以前別の先生が言っていた事を思い出した。

「日本人はRとL、韓国や中国人はBやVが苦手だね。母国語にないからね」

発音が違っているのは、本当に私なんだろうか。そこで先生を呼んで私の発音をチェックしてもらうと、

「いいわよ、でも最後のRはもっと舌を丸めこんで」

とのアドバイス。もう一度発音すると、OKをもらうことができた。台湾人の彼女をちらっと見るとうつむいてしまって、そこから発音に関してはもう何も言わなくなってしまった。

 

 

 

 これは発音に限った事ではないが、物ごとというのは、一歩引いて客観的に捉えるまで、正しいか正しくないかなんてわからないのだ。これはこうだと自分一人で決めつけた瞬間、人間は学ぶ機会を失うのだろう。