おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

カナダで犬の面倒を見る

カナダに留学していた頃のお話。

 

私が数ヶ月ホームステイさせてもらった家に、ある日子犬がやってきた。ホストマザーによると、ドーベルマンとラブラドールのミックス(どどうやって愛を育んで交わったんだろうか)のオス。名前は聖書から取って、ルシファと名付けられた。

 

二ヶ月ほどたった時、ホストファミリーがクルーズ旅行に10日ほど出かけることになった。私達留学生の世話はホストマザーの知り合いが来てくれることになったが、問題はルシファだった。誰に面倒を頼むか、という話をしていた時、ついうっかり

「私がやろうか?」

と言ってしまった。途端にマザーの目が輝く。

「まあ、ホントに?!ありがとう!!」

お礼としてお小遣いをくれる、ということになり、貯金を切り崩していた私にとっても嬉しい話だった。

 

ホストファミリーがクルーズ旅行に行く一週間前にルシファのお世話の仕方を教わった。まず、エサの用意の仕方から。これが意外と手が混んでいた。彼らは普段の人間の食事には結構おおらかなのに、大事な愛犬にはきめ細やかだったのだ。

まず、ドッグフードの缶詰を開けたらそれを半分だけボールにだして、スプーンで細かくほぐし、レンジにかける。そこにドライフードカップ一杯と、栄養補助食品を二種類いれてさらに混ぜる。

エサのやり方にも決まりがある。庭の犬小屋の前で興奮気味で待っているルシファの所に来たら、餌を鉢に入れ、「お祈り」をさせる。ファザーによると、ルシファは、クリスチャンなんだそうだ。

「ペラペラペラペラ…アーメン!」

このアーメンがルシファにとって日本語でいう

「よし!」

なのだ。ここでやっとルシファはご飯にありつく事ができ、私の朝のお仕事が終わる、というわけだ。ファミリーはよほど心配だったのか、出発前に3回も私にエサのやり方を教えてから旅立って行った。

 

私はその間、朝晩毎日エサをやり、散歩に連れていった。ただ、私がそんなきめ細やかな事をやり続けるワケがない。エサの時は缶詰の中身とドライフードをレンジにもかけず、ただ鉢にぶちこんでいた。お祈りは何を言っていいのか全くわからないので

「むにょむにょむにょ…アーメン!」

で済ませた。出鱈目もいいところだ。

 

ルシファは最初の3日は餌を出されるなり直ぐに食べようとしていた。だが私に

「おい、コラっ!」

と日本語で怒られているうちに、どうやらしばらくは私の言うことを聞かないとご飯にありつけないと悟ったらしい。恨めしそうな目でこちらを見ながら、次の「アーメン」を待つようになった。

 

犬と、小さな子供は、どこでもなかなかゲンキンな物である。