バレーボールからの逃避
教員時代の思い出話を一つ。
毎年、5月頃になると職員室はにわかに活気づく。それは、「体育部会主催、教員対抗バレーボール大会」があったからだ。
どこの学校も、所属する市や区の教育委員が主催する研究会(通称、市教研又は都教研)に入っている。教員が興味のある教科の部会に分かれて、授業の研究会をする会で、その中には体育を研究する部会もある。そこに所属する教員達が、毎年その時期に企画するのである。私は何回か都内で異動を経験したが、どこの学校でも毎年その時期に行われていたので、慣習なのだろう。
朝の職員朝礼の最後に、体育部会の若くて元気な教員がアナウンスする。
「今日の放課後、5時頃からバレーボールの練習を行いますので、皆さん体育館にお集まりくださーい。特に、若手の皆さん、おねがいしまーす。」
私は毎年これを聞くと、内心ぎょえ~~~と叫んでいた。
はっきり言って出たくない。
教員の定時は、16時45分と決められていて(この時間で帰れた事など、ほとんどなかったが)5時、というのは勤務時間後。つまり仕事ではない。
だったら、出なきゃいいか、と言うと、そんなに単純な話ではない。
仕事が終わらないので、と皆が練習をしている時に、職員室で仕事をした事が何度かあったのだが、先輩先生達に
「あら~練習行かないの~~?」
と言われる。はあ、まあ、などと言っていると、
「教員同士の交流と団結を高めるため」
「市内の教員同士の交流の貴重な機会」
「みんなも仕事終わらない中やっているんだから」
「若手なんだから、出ないと」
等々、様々な「出ないとダメ」キーワードを並べられるのが常だった。みんな仕事が終わってないなら、みんなバレーボールなどやってる場合じゃないだろ、と思うのだがここが日本的同調主義の不思議なところだ。
みんながやっている事を一緒にやるのが、正しいのである。
しかも、不幸な事に私は無駄に背が高い。これまで部活は文系で、スポーツなどやってこなかった。球技なんて大っ嫌い、なのに。
「背が高いから、バレーとかバスケットとかできそうだよね」
という悪意のない言葉に、これまで何度イラっとしてきたことか。なんだよ、背が高かったら、球技が出来なきゃダメなのかよ。
だから、私は朝礼でバレーのアナウンスがあった日は、16:45になったら仕事を抱えて自分の教室、もしくは図書室に引きこもっていた。そして廊下の足音が聞こえる度に、どきっとしながら、小さくなって過ごす。職員室に戻るのは、皆が練習を終えて、帰り始める19時過ぎ。この一連の逃避行を、私は毎年繰り返していた。
恐らく、他の教員からは「あの子って、協調性ないよね。変わってるよね」と言われていただろう。
仕方がない。だってやりたくないモノは、やりたくないのだから。