おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

くせ

子供の頃から、鼻をこするのがくせだった。

 

いや、だった、ではない。くせだ。

 

普通にこするのではない。左手をグーにして左から右へ勢いよくこする。すると、指の関節と鼻の凹凸がいい感じにこすれあい、ゴリゴリ、ゴリゴリと音がなるのだ。私は基本、右利きなのだが、この時だけは左手だ。なぜか右手だと、左手ほどの勢いと音が出ない。

 

この感触、結構クセになる。まず、音がいい。そして鼻のなんとも言えないムズムズ感が解消されるような、痒い所をかきむしったような感覚もいい。

 

だが、この様子は端から見たら気持ち悪い。子供の頃うっとりと鼻をゴリゴリこすっていると、必ず母が目くじらを立てた。

「止めなさい!鼻が大きくなるじゃない!!」

言われると、とりあえず止めるがこんなに気持ちがいい事をなぜ母はやらないのか疑問だった。母も試しにやってみればいいのに。きっとこの気持ちよさに驚いて、一日中ゴリゴリこすり続けるに違いない。

 

しかし、大人になってこの言葉を思い出さずにはいられない日がやってくる。

数年前、公立の小学校の特別支援学級で6年生を担任した。男ばかり、6人。女は私一人だった。それまで彼らは男の教員にしか受け持たれなかったそうで、女という生き物に馴染んでいなかった。そのせいか、私の持ち物やら行動やら、見ていなさそうで興味深々で観察していた。

ある日、その中の一人が、私の顔をしげしげ見ながらこう言った。

「せんせいってさ、昭和顔だよね」

 

・・・・はあ?

確かにその年から歴史の勉強で昭和という時代の年号は教えていたが、昭和顔などという言葉は聞いたことないし、意味がわからない。

「・・・よくわかんないけど、私のどこが昭和顔なのよ?」

その子は私の顔の中央を見ながら、はっきりと

「鼻がでかいところ」

 

ああ、お母さん。やっぱりあなたは正しかった。

あの時鼻をこすり続ける事さえ止めていれば、こんな事にはならなかったのに。