おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

あり合わせアウトドア

私は山が好きなので、カナダに行く準備をする時、トレッキングシューズとレインウエアは真っ先にスーツケースの中に入れた。カナダはユーコン川のカヌー下りや、ロッキー山脈で有名な国。きっとトレッキングを楽しむ人も多いだろうし、アウトドアウエアは普通に皆もっているのだろう、と勝手に想像していた。

 

最初にお世話になったホストファミリーが、トレッキングに一緒に行こうと誘ってくれた時、彼らの格好を見てびっくりした。

スニーカーにヨガパンツ。背中のザックも町で持つような合皮のいわゆる「おしゃれリュック」で、とても山で持つような物ではない。

 

しかし、何度かハイキングやトレッキングに行くうちに、それがここでは普通である事に気が付く。足元がスニーカーならばまだいい。中にはペタンコパンプスのような靴を履いてきている人や、暑いからか上半身裸の人もいた。皆共通しているのは、山に行くための道具や服をわざわざ買ってはいない、という事。おそらく、クローゼットの中の物の中の「あり合わせ」だ。

 

私は実は過去に10か月だけ、某アウトドアショップの店員をしていた時がある。そこは、ショッピングモールの中にあった事もあって、初めて山に行こうとしているお客さんが多かった。

多くのお客さんに共通していたのが、「山に行くには、専用の物を揃えなければ」とこちらに聞いて、その通りに買っていくことだ。

中には「別に自分は行きたいわけではないんですけど、人に誘われて行くことになっちゃって。これ買っても絶対二回目は着ないんですけどねー」と、半ば愚痴を言いながら仕方なしに買っていく人もいる。こちらとしては、お金を落としていっていただけるのは大変ありがたい事なのだが、せっかく買ってもらったからには大事に何度も使ってもらいたいわけで、ちょっと複雑な気持ちになった。

正直に言ってしまえば、山に行くのに特別な道具は必要ではない。歩きなれた靴に雨具、動きやすい服装さえあれば、気軽なハイキングくらいなら問題はない。(もちろん専用の道具の方がより快適で安心ではあるが)だが、「山に行くにはちゃんとした格好じゃなければならない」とこちらの言う事をきちんと聞いて買ってお客様が大変多く、おかげでお店は大繁盛だった。

 

だが、アウトドアってそういうもんなんだろうか、とふと思ってしまう。

自然の中に行くと、予期せぬ事がたくさんある。アウトドアを偉そうに語れるほどの経験は私にはないが、それでも山の稜線で雷の音を聞いて慌てて走ったり、霧で前が見えなくて道に迷ったりした経験はある。そういう時に、自分のザックに入っているものや周りにある「あり合わせ」でいかに乗り切るか、それがアウトドアのだいご味であり、また時に運命を左右する。

 

ペタンコパンプスや上半身裸で山に行く事は、決しておすすめはできないが、一回しか行かない登山のために上から下まで整える事は、「なんか違う」と思ってしまう。

 

今、小学校の学習指導要領には「生きる力」という言葉がたくさん並んでいる。「生きる力」とは何なのか。きっと色々な答えがあると思う。

私は自分と自分の周りにあるモノを活用して、人生を切り開く事だ、と信じている。