おたまじゃくしはカエルの子

元小学校教員の、徒然なる日々の記録

飛行機の乗り方 2

 搭乗する2時間半前に成田に着いた。

 

 成田は広い。どこに行っていいのかわからず、インフォメーションで聞き、航空会社のカウンターへ向かう。どこかの子供達のチーム(おそらくサッカーか何か)が円陣を組んで掛け声をかけた後、ぞろぞろと列を作ったので、大混雑だ。30分ほどしてやっと自分の番が回ってきて、航空券の予約票を見せると受付のキレイな女性は何やらパソコンを操作して、こう言った。

「これ、隣の航空会社ですね」

 

 隣のカウンターは空いていた。予約票を見せて、乗り継ぎ時間が短くて心配という事を伝えてみると、いかにも仕事のできそうなその女性は、

「大丈夫ですよ。ポートランドは空港も小さいですから、迷うこともないでしょう」

とけろっと教えてくれた。そうか、ならなんとかなるかな、と胸を撫でおろす。

 ところが、だ。その女性は航空券を印刷して、パソコンでカチカチなにかやりつつこう言ったのだ。

「やっぱり短いですね、この乗り換え」

なんでもその航空会社では乗り換え時間は最低でも75分は取るように決めているらしい。私の予約した便の乗り換え時間は55分。20分も違う。心配してくれたのか、その人は内線電話で、このチケットの乗り換えを変更できないか、訊いてみてくれたが、今さらもう無理らしい。まったく、安さに負けてなんて物を掴んでしまったのか。

 

 その後やっぱり重量オーバーだった手荷物からいくつかのポーチやら本やらを抜いて手荷物のザックに入れたのだが、うっかり大切な肥後守を手荷物に入れてしまい、(というかこれはなんで持って来ようとしたのか、謎である)金属探知機で引っかかり没収されるという更なる憂き目にも合う。もーどーにでもなりやがれ。

 

 まずは成田からポートランドへ。機内では緊張と不安で全く寛げなかった。直前で荷物をがさっと入れ替えるなんて事もしているので、機内で使うはずの物がどこに入っているのかもわからず、そわそわ、がさがさとザックを漁る。ふと椅子の下に何かが落ちているのに気が付き、手を伸ばして掴んでみると、柔らかくて温かい。

後ろの座席の人の素足の指だった。

 

 ポートランドに着く。我先に、と降りたい所だが、エコノミークラスの自分にはなかなか順番が回って来なく、入国審査に来た時には長い列ができていた。私の前に並んだ若い夫婦が、ガムをくちゃくちゃ噛んで審査をする審査官につかまりなかなか私の番が回て来ない。しびれを切らして、そばにいた「Ask Me」というバッチを付けた親切そうなおじさんに時間がない旨を伝えてみると、ちょっと待ってそれでもだめなら隣の列に移ってもいいよと言ってくれる。隣のレーンにはちょうど人がいなくなった所だ。きっと親切に言ってくれたに違いないのに、なぜか余計にもどかしくなる。一刻も早く回して欲しいのに。しびれを切らしそうになった所で、やっと私の番がやってきた。前の夫婦はあんなにも時間がかかったのに、私の番はあっという間で、いったい何が問題だったのだと言いたくなる。ガムなんか噛んでいるから時間かかるんじゃい。

 

 その後、またしても手荷物検査で引っかって再検査され、されにはボディチェックで土足のまま機械の中に入ろうとして止められ(アメリカでは靴も検査される)、ここでもまたしてもロスタイム発生。

結論から言うと、間に合った。出発する13分ほど前に飛行機のカウンターに駆け込むと、金髪のかわいい女性が私を見るなり「Come!Come!」と言っていたから、きっと日本の女が来ないと待っていてくれたんだろう。座席に座りこむと、ホントにほっとして、前のフライトで眠れなかった分一気に眠くなった。しかしほとんど眠れなかった。なぜなら、この飛行機はポートランドからシアトル行き。地図で見たら小指の爪の半分程の距離の、たった28分のフライトである。乗り換えの事を心配してくれた、留学の会社のOさんの「安いのにはそれなりの訳があるんですよ」という言葉を思い出す。

 

 シアトルから乗り換えてバンクーバーに着き、入国審査とイミグレーションでの手続き(これがまた長かった)を終えた時は、教員時代、学期末の子供の成績を全部付け終えたような達成感があった。

 いや、何も達成してはおらず、むしろこれから始まるのだが。

 

とりあえずスタート位置にはついたのだ。